「従業員の横領を顧問税理士は発見する義務がある?」
「従業員の横領を発見できなかった顧問税理士へ損害賠償請求したいけど可能?」
このような疑問を抱えている人は少なくありません。
結論から言いますと、一般的な顧問契約であれば、従業員の横領を発見できなかったことに対する損害賠償請求は困難であると考えられています。
ただし、顧問税理士と不正発見の業務について個別に契約をしていた場合や、不正を知っていながら経営者に助言をしなかった場合に関しては、顧問税理士へ損害賠償請求できる可能性があります。
そこで今回は、顧問税理士は従業員の横領を発見する義務があるのかどうかを、その根拠法となる税理士法の不正発見義務について紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。
顧問税理士は社員の横領を発見する義務がある?
結論から言いますと、顧問税理士に社員の横領の責任を問わせるのは難しいと考えらます。
実は、過去に顧問税理士が顧問先の従業員の横領を発見する義務があるかどうかで裁判が行われたケースがありました。
会社側の言い分としては、「従業員の横領は、不正経理を行っていたことにより行われたものであり、会計を担当する顧問税理士は従業員の横領を発見できたはず」というものでした。
日々税務や会計業務に携わっているのであれば、気づくはずだという考えから裁判に発展したケースです。
会社はもちろん横領した従業員に対しても裁判を起こしていますが、不正を発見できなかった顧問税理士に対しても損害賠償請求が認められるのではないかという点が裁判で争われることとなりました。
裁判所の判決
この事例において裁判所は以下のような判例を示しています。
「税理士法第1条では、税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそって、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする。としており、同法第41条の3では、税理士は、税理士業務を行うに当たって、委嘱者が不正に国税若しくは地方税の賦課若しくは徴収を免れている事実、不正に国税若しくは地方税の還付を受けている事実又は国税若しくは地方税の課税標準等の計算の基礎となるべき事実の全部若しくは一部を隠ぺいし、若しくは仮装している事実があることを知つたときは、直ちに、その是正をするよう助言しなければならない。としているが、税理士が税理士業務を行うにあたっては、一般的に不正を発見する義務があるとは言えず、税理士に不正発見を委託することを個別に委任しなければ、税理士が委託の不正を発見する義務を負うことはないというべきである。」
以上の判例では、税理士法の不正発見を委託することを個別に委託されていなければ、顧問税理士だからといって従業員の横領を発見しなければいけないという義務を負っている訳ではないとの解釈が示された結果となりました。
もちろん、不正発見義務がなかったとしても、従業員の横領に気づいておきながらそれに対して経営者に対して助言していなかった場合は、損害賠償請求が認められるケースもあります。
ただし、顧問税理士が不正の真実を知っていたかどうかを明確にするのは困難であることから、一般的に税理士を訴えるのは難しいと考えていた方が良いでしょう。
今回のケースでも顧問税理士が横領に気づいていたと断定するのは難しく、損害賠償請求は困難であるとの結果となりました。
顧問税理士と不正発見義務
紹介したケースでは、顧問税理士との契約に「不正を発見すること」が規定されており、税理士が不正発見を業務として受託することに合意した場合にのみ、税理士は不正発見義務を負うものと考えられています。
顧問税理士との契約内容に不正発見の委託がされているのであれば、顧問税理士に対して損害賠償請求が出来た可能性があったものの、個別委託していないのであれば、顧問税理士に対しする損害賠償請求は難しいということになるのです。
まとめ
- 顧問税理士は顧問先の従業員の横領を発見した場合経営者に助言しなければならない
- 顧問税理士が悪意無く従業員の横領を見つけられなかった場合損害賠償は負わない
- 経営者と個別に不正発見業務について契約している場合は訴えられる可能性もある
一般的に顧問税理士は不正発見が出来なかった場合であっても損害賠償を負う必要はありません。
ただし顧問契約の内容で「不正発見義務」について契約しているのであれば、税理士に対しても損害賠償請求も可能であると考えられます。
尚、仮に顧問契約に不正発見義務の記載がなかったとしても、横領を知っていながら黙っていた場合は損害賠償請求できる可能性があります。
不安に感じている人は、顧問契約内容を今一度確認することが重要です。