「営業権って何?」
「のれんと何が違うの?」
このような疑問を抱えている人は少なくありません。
結論から言いますと、M&Aにおける営業権とは「M&Aの価格と対象企業の純資産の差額」のことを指しています。
仮に純資産が1億円の企業が、1億2千万円で買収された場合、その営業権は2千万となります。
しかし、2006年に施行された会社法によれば、M&A価格と純資産の差額は「のれん」として定めることとなったため、現在は勘定科目として営業権という言葉を使うことは無くなりました。
それでは営業権という言葉が完全に使われなくなったのかと言われればそうではありません。
実はM&Aにおいて営業権という言葉は「のれん」と違う意味で用いられることがあります。
そこで今回は、M&Aにおける営業権について徹底解説していきますので、ぜひ最後までご覧ください。
【目次】
営業権の定義
営業権がM&A価格と純資産の差額であることは分かりましたが、具体的に営業権を定義付けしたらどのようになるのでしょうか。
営業権は、「会社が長期間にわたって収益を上げるための無形固定資産」です。
無形固定資産のため、形のあるものではないですが、M&Aにとっては売買価格を大幅に左右する重要な指標となります。
具体的には
- 会社のノウハウ
- 会社の従業員
- 取引先
- 顧客ホルダー
- 特許技術
- 立地条件
等が営業権に含まれています。
会社の決算には乗っていない部分が、売買価格に上乗せされ、その分が営業権として計上されることとなります。
尚、無形固定資産には、営業権の他に特許権や商標権なども入ります。
「営業権」と「のれん」の厳密な違い
営業権がのれんという言葉に変化しているため、同じ意味で用いてしまって問題はありません。
しかし、M&Aの売買価格を設定する上で、厳密には双方に若干の違いがあります。
<営業権>
営業権は、純資産+αという考え方があります。
具体的に言えば、純資産と営業権は完全に分けて考えて、対象企業の「技術」「人材」「ブランド」などの無形固定資産を純資産にプラスしてM&A価格を決定するという考え方です。
差額を差し引いて計算するのではなく、現状を分析した上で価格を増やしていくという考え方になります。
<のれん>
のれんに関しては、最終的な売買価格と純資産総額の差額となります。
そのため、買収先企業の総合的な価格を評価し純資産を引き算することで算出します。
営業権の税務
営業権の税務取扱いはどのようになるのでしょうか。
企業の純資産総額よりも高値で買収、売却した場合は、買手企業売手企業それぞれで税務処理が必要になります。
<買手企業>
買手企業は営業権を「資産調整勘定」と呼ばれる勘定に損金として計上し、その後5年間で均等償却する必要があります。
仮に営業権は6,000万円であった場合は、月100万円を5年間かけて償却していくこととなります。
<売手企業>
売手企業は譲渡益が発生しますので、益金に対しては法人税の支払対象となります。
売手企業が個人事業主の場合は所得税の支払対象となります。
M&Aにおける営業権の取り扱い
会社法施行により、営業権という言葉は「のれん」になったのにも関わらず、M&A業界では未だに営業権という言葉が利用されています。
それは、のれんが売買価格からの引き算で算出するのに対して、営業権は、売買価格を算出するのに使われるからです。
実はM&Aにおいては「純資産+営業権=売買価格」という考え方の方が自然で単純で分かりやすいという特徴があります。
営業権として無形固定資産を評価した方が、買収先企業の強みや価値を明確にすることができ、M&Aにおいて双方納得した上で売却に至ることが多いためです。
M&A価格は双方が納得した上で価格が決定するため、分かりやすさは非常に重要となります。
M&Aをスムーズに進めるためにも、営業権という考え方を利用することが多いのです。
M&Aにおける営業権の評価方法
さて、最後にM&Aにおける営業権の評価方法について説明していきます。
M&Aにおける営業権の評価で、よく利用されるものは以下の3つです。
- 年買法
- 実査査定法
- 類似企業比較法
それぞれについて詳しく解説していきましょう。
年買法
年買法とは、税引き後の営業利益を3年~5年分を営業権として算出する方法です。
評価の方法が分かりやすく、主に中小企業のM&Aでよく利用されます。
尚、3年~5年とありますが、その年数に明確な根拠はありませんので、M&Aを実施する会社同士の判断になります。
実査査定法
実査査定法とは、実際に事業を行っている工場、事業所、店舗などを訪問し、企業価値を査定する方法です。
実査は、M&Aコンサルタントなど専門家に依頼しておくようにしましょう。査定経験などが非常に重要な指標となります。
尚、実査による査定のみではなく、決算書やその他の評価法とも比較しながら総合的に営業権を算出することとなります。
類似企業比較法
類似企業比較法とは、よく似た事業を行っている上場企業の株価や企業の価値と比較することで、買収企業全体の価値を判断する方法となります。
上場企業との比較となるため、納得性が高く、また上場企業は決算書の公開義務があるため、誰でも簡単に計算することができます。
ただし、類似企業が無いケースや、会社規模が大きく異なるケース等については、この方法が当てはめられない場合があるため注意が必要です。