「在庫は決算書にどう影響する?」
「在庫の計算方法で決算書は変わる?」
このような疑問や不安を抱えている人は少なくありません。
結論から言いますと、在庫は決算書の利益に直接影響を与える科目です。
そのため、在庫が期末にどのくらい残っているかによって決算の数字が大きく変わってきます。
実は、この在庫が決算に与える影響を利用して、粉飾決算を行うことも可能なのです。
実際に当事者以外は倉庫の中を一つひとつ確認して実際に在庫があるかどうか判断するわけではないので、分かりにくい科目であることも粉飾決算に利用されやすい原因でもあります。
今回は「在庫が決算に与える影響」について説明しますので、在庫の調整によって利益がどう変わるのか確認してみて下さい。
在庫と粉飾決算について
在庫の数は決算に直接影響を与える科目ですので、在庫の数を調整することで、決算の利益を操作することが出来ます。
会社が利益を出すためには、売上から売上原価と経費を差し引いた金額がプラスになる必要がありますが、その売上原価は在庫の数と直接関わりを持っています。
〈会社の利益計算〉
売上―売上原価―経費=利益
在庫=売上原価ですので、売上原価を操作することで会社の利益を操作出来ます。
在庫(売上原価)の考え方
売上100万円を計上するために在庫50個使用したA社と、10個使用しただけで売上100万円を計上したB社では、どっちの方が会社として優秀でしょうか。
売上は2社とも同じ100万円ですが、売上原価となる在庫が50個必要になった企業と10個しかかからなかった企業では、利益の出方が変わってくることを理解できると思います。
A社:売上100万円―売上原価50万円=売上総利益50万円
B社:売上100万円―売上原価10万円=売上総利益90万円
原価の考えを理解できれば、在庫10個で100万円を計上できたB社の方が利益を多く残せることとなります。
つまり、決算時の在庫が多ければ多いほど、売上原価がかかっていないことになりますので、利益が多くなるということになります。
ここで問題になるのが、架空在庫の存在となります。架空在庫が多ければ多いほど、利益が増えるため粉飾決算に利用される手段となります。
原価の計算方法
企業の決算は連続性がありますので、前期の期末在庫が今期の期首在庫となります。
期首の在庫も原価計算に加える必要があることから、今期の売上原価を計算するためには、期首の残高と期中の仕入高を足した金額から、期末に残っていた在庫を差し引くという方法で求めることになります。
〈原価計算〉
今期の仕入原価=期首棚卸高+今期仕入高―期末棚卸高
具体的な例で確認しみてみましょう。
期首棚卸高:100万円(+)
今期仕入高:200万円(+)
期末棚卸高:50万円(ー)
100万円+200万円―50万円=250万円(売上原価)
つまり、今期の売上原価は250万円です。
期末在庫が多く残れば多く残るほど売上原価が減りますので、粉飾決算では架空在庫を計上することで利益を大きくする方法が使われます。
架空在庫と原価計算
架空在庫とは、価値の無い在庫をかさ増しして計上することで、在庫を増やす処理のことを言います。
架空在庫が粉飾として使われやすいのは、当事者以外が決算期末に在庫を直接確認することがほとんどないことから、それが実際に「存在した」と言われてしまえば、その存在を否定することは簡単ではないからです。
また、一般的に価値がないようなものも、経営者にとってみては価値のある物として捉えて原価を計算している可能性もあり、在庫がどのくらいあるかという問題は判断がしにくいのが現状です。
仮に不良在庫や架空在庫があったとしても、それを不良としてみなすかどうかも難しい判断であることから、在庫は粉飾決算によく使われるという事です。
具体例で確認してみましょう。
- 売上1,000万円、経費800万円の企業の場合
期首棚卸高:100万円(+)
今期仕入高:200万円(+)
期末棚卸高:50万円(ー)
⇒今期の仕入原価250万円
売上1,000万円-原価250万円-経費800万円=利益▲50万円
このままでは50万円の赤字になってしまいます。
そこで次は期末の在庫が200万円あったことにしてみましょう。
期首棚卸高:100万円(+)
今期仕入高:200万円(+)
期末棚卸高:200万円(ー)
⇒今期の仕入原価100万円
売上1,000万円-原価100万円-経費800万円=利益100万円
先ほどは50万円の赤字だったものの、在庫調整によって100万円の黒字になりました。
このように在庫を増やすことで原価が減りますので、利益の増加原因になります。
ここで実際に期末在庫が200万円なければ、粉飾決算という事になります。
まとめ
- 在庫は原価に影響するので利益に直接関わってくる
- 期末在庫を増やすことで利益が増える
- 在庫という性質上粉飾を見抜きにくい
在庫による利益調整は簡単にできて、かつ見破るのが難しい科目となっています。
しかし、実際には価値がないもの計上したり、架空在庫を計上したりすると、いつか決算書上に歪が生じます。
仮に正確な決算をしようとすれば次期決算では架空在庫した分減らさなければいけません、つまり利益が減ります。
結局調整出来ずどんどん膨らんでいくのが架空在庫の怖いところです。
いつか粉飾がバレた時に信用を落としかねませんので、粉飾決算は行わないようにしましょう。