「決算で赤字が出そうだから減価償却したくない」
「利益が沢山出そうだから減価償却を来年分もして大丈夫?」
このような疑問や不安を抱えている人は少なくありません。
結論から言いますと、減価償却を計上しないことで赤字幅を縮小することは可能です。
減価償却は「任意償却」ですので、減価償却するかどうかは事業者の判断に任されています。
しかし、減価償却で利益調整を行い続けても、問題ないのでしょうか。
今回は、減価償却と利益調整について説明します。
【目次】
減価償却とは
減価償却とは、事業に供する建物や車などの有形固定資産を、購入時に一括で経費計上するのではなく、毎年一定の割合ずつ費用計上する方法のことです。
減価償却を行う期間は耐用年数内となっているため、耐用年数内で減価償却が終わるように計算しなければいけません。
耐用年数は法律で決まっており(法定耐用年数と呼ばれている)、国税庁のホームページで確認することが出来ます。
減価償却の具体例
では実際に、500万円のダンプを購入した場合の減価償却について計算していきましょう。
購入日:令和3年8月1日
購入価格:500万円
耐用年数:4年(ダンプ)
償却方法:定額法
決算期:7月末日
まず、購入価格が500万円で、耐用年数が4年であることから
500万円÷4年=125万円(年間)※4年間償却し続ける
という計算になります。
今回は、7月決算の会社が8月1日に購入しているため、令和4年7月期の減価償却費から125万円計上出来ますが、仮に6月1日に購入した場合は以下のようになります。
500万円÷4年×2ヶ月÷12ヶ月=208,333円(初年度)
※次年度以降125万円を3年に亘って計上し、5年目に1,041,667円計上し500万円を全額償却する。
定額法と定率法
減価償却には毎年一定額を償却し続ける「定額法」と、毎年一定の償却率を乗じて償却額を計算する「定率法」があります。
定額法の場合は、先程の具体例にもあった通り取得価格を耐用年数で割れば算出出来ます。
定率法の場合は、法定償却率を期首簿価に乗じて償却額を出します。
「期首簿価ー償却額」を計算することで期末簿価を算出し、期末簿価を来期の期首簿価として計上します。
その繰り返しで期末簿価が1円になるまで計算し続けます。
決算時の減価償却について
減価償却は税法上「任意償却」することが認められていることから、減価償却を行わないという選択をすることも可能です。
減価償却費は「販売管理費」もしくは「製造原価」の科目として計上されます。
経費や原価として計上される科目であることから、減価償却をしなかった場合はその分が利益として増えることとなります。
減価償却を満額行えば赤字になってしまう場合、減価償却を計上しないことで赤字幅を圧縮もしくは黒字化することが可能です。
任意償却でも多く償却することは出来ない
任意償却は「償却しない」と選択することは出来ても、「3年分まとめて償却する」等の通常よりも多く償却する選択をすることは出来ません。
つまり、今年は利益が多く出そうだから先々の分の償却まで行いたいということは税法上認められていないという事です。
また、昨年度償却をしなかったから今年2年分するということも認められていませんので注意が必要です。
減価償却不足と利益調整
利益調整を行う目的としては
- 金融機関に見た目のいい決算を見せたい
- 投資家に見た目のいい決算を見せたい
以上のような理由が挙げられるでしょう。
しかし、金融機関に利益調整を行った決算を提出した場合、普通は償却しなければいけない金額が償却されていないとして「減価償却不足」として認定されてしまい、決算書から不良資産として差し引かれる可能性が高いです。
具体的に説明すると
購 入:令和1年8月1日
購入価格:500万円
耐用年数:4年(ダンプ)
償却方法:定額法
決 算:令和3年7月31日
普通償却:250万円
償却実施額:0万円(不足250万円)
以上のようなケースであれば、決算書上は減価償却を行ってないため、車両運搬具500万円として計上されていますが、金融機関は車両運搬具250万円とみなして決算を見ます。
その相手科目は純資産から差し引きますので、減価償却不足は実質債務超過に繋がる可能性も高いです。
減価償却による利益調整では金融機関を欺くことは出来ないので、黒字決算しても決算書は厳しい目で見られてしまうでしょう。
まとめ
- 減価償却は「任意償却」だが、償却範囲を超えて償却することは出来ない
- 減価償却費で利益調整することは可能
- 減価償却不足額は金融機関から厳しい目で見られる可能性がある
減価償却の調整によって利益が出たとしても、支払う税金が増えるばかりか金融機関の目も欺けない可能性があります。
本業で利益を出せず、かつ減価償却負担が重ければ、固定資産売却により一時的に利益を出す等の方法もあります。
一度税理士に相談して、どの方法が現状最も適しているのかを相談してみるのが良いかもしれません。