社長が会長によるパワハラを訴えた理由
福岡地裁は2022年3月1日、地場大手パンメーカーの元社長が精神的苦痛を受けたなどとして会社と会長を訴えた「会長によるパワーハラスメント」事案に対し、同社と会長に計1,045万円の支払を命じる判決を下しました。
元社長は1981年に入社し、2017年に社長に就任、2019年2月にうつ病を発症して 翌月退社しました。
元社長は社長就任中に業績低迷について、会長から、社内会議で「会社の金を横領するより始末が悪い」「本当に無能だ」「最悪の状況になったら呪い殺してやる」などと言われ、うつ病を発症して退職に追い込まれたと主張しました。
役員間におけるパワハラが成立するのか?
裁判所は、元社長の訴えの一部を認め、上記のような発言が元社長の地位や人格否定につながり、違法と判断しました。
一方で、会社が業績悪化で強い言葉による叱咤激励もやむを得なかったことを認めた上で、元社長への「パワハラが専らうつ病発症の原因となったとは言えない」として、慰謝料は100万円に減額して認めるなど、会社側の主張も一部認めました。
なお、会長の判断で支払われていなかった退職慰労金は、会社に850万円の支払が命じられました。
パワハラは労働者だけが対象とは言えない
2022年4月から、中小企業も対象となるパワハラ防止法の正式名称は「労働施策総合推進法」ですので、一般には労働契約を対象にしたものと考えられます。
今回の判決は委任契約にある取締役の間におけるハラスメントも認められ得ることを示唆しています。
本件は地方紙だけでなく、複数の全国紙で社名と会長が実名で報道され、最終消費者に対するパンメーカーとしての信用失墜の影響の方がむしろ大きいと思われます。
パワハラ対策は、社員間だけでなく、対象を広く考える必要があるようです。