判決はどこまで理解していたのだろうか
地裁・高裁・最高裁のすべてで、政令規定を違法無効とした混合配当訴訟事件では、その政令規定による計算値の異常さが判決を生み出したものの、判決は異常さの全てに対応するものではありませんでした。
- 分配資本剰余金を超えた資本金等減算額が計算される(=みなし株式譲渡対価)
- 株式譲渡原価も分配資本剰余金を超える
判決が対応したのは(1)の異常値のみで、その結果、(2)の異常値は放置されたままになっています。
税制改正も判決と同じ対応
今年の税制改正も判決と同じく、≪(1)資本金等減算額(=みなし株式譲渡対価)≫が払戻し資本剰余金を超える事のないようにしただけで、株式譲渡原価が、1円の備忘価額を残した帳簿価額の全額となって、異常な譲渡損を計上することになってしまっていた原因の規定には手を付けていません。
付け焼き刃的な改正の印象です。
株式譲渡原価の規定
改正後の規定での株式譲渡原価の額は、改正前と同じく、所有株式の帳簿価額に乗ずる按分比を≪(1)資本金等減算額(=みなし株式譲渡対価)≫の異常値を算出した時のものをそのまま使っています。
即ち、分子が分配資本剰余金の額で、分母が純資産価額(資本金等の額+利益積立金)です。
そして、利益積立金がマイナスの時で過分数となるときは、比は1とされています。
従って、その場合の株式譲渡原価は、所有株式の帳簿価額の全額となってしまいます。
分配資本剰余金が資本金等の額の一部だったとしても、資本金等の額に対応する株式帳簿価額の全額が株式譲渡原価と算定されています。
どういう按分比にするのが道理か
素直に考えれば、分配資本剰余金が資本金等の額全体の一部であるのならば、資本金等の額に対応する株式帳簿価額に、全体の中のその一部が占める割合で株式譲渡原価を算定すべき、となるでしょう。
そこに何故思いが至らないのか不思議です。
但し、計算式の中の各数値は税務上の数値ですが、資本剰余金だけは会計上の数値です。
この資本剰余金の金額が資本金等の金額と同質でなく、資本と利益の混同をしている数値だとしたら、混同の無い数値に変換する事が必要とすべきです。