海外出張でのリスクと安全配慮義務
労働契約法第5条には、企業の安全配慮義務として、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と明示しています。
この労働者には、当然に海外出張者も含まれます。
したがって、企業は、仮に自社の従業員が海外出張中に事故等に遭い、生命や身体等に危険が生じた場合において、事前に必要な措置を講じていなかったときは、安全配慮義務違反として、債務不履行責任等を問われる可能性があります。
令和3年9月にISO30130:2021が発行され、トラベルリスクマネジメントへの注目度が高まりだしました。
ISOでは、人の移動によって派生するリスクへの対応を社会、経済、自然、医療や地政学など様々な観点から示しています。
病気、事故、犯罪など想定されるリスクには、その回避策を、自然災害やテロなどの予期せぬリスクには、その発生時に備えた対策を準備することを基本としています。
つまり、トラベルリスクマネジメントの目的は、事前に予期できるリスクを未然に防ぎ、万一予期せぬリスクに遭遇してしまった際には、その被害を最小限に食い止めることにあります。
海外出張における管理
海外出張において、その出国から帰国までその従業員の安全を見守り、万一の不測の事態が起きた際に迅速な対応を取るためには、その出張に関しての行程管理は必須になります。
海外出張の計画から手配、精算までをトータルで管理することによって、その出張者の旅程の内容が把握できます。
逆に言えば、これらの手配等を出張者本人に任せきりにしてしまうと、どの便の飛行機に乗るのか、どのホテルに泊まるのかなどを会社が把握できない可能性があります。
なお、海外航空券のルールは複雑で、専門的な知識が必要な場合もあり、業務負担が重くなります。
このため、これらのノウハウを持った旅行会社に、自社の出張規定に沿った手配を委託するなどの方法もありますが、かかる費用は安くないため、これが難しい場合には、海外危機管理やトラベルリスクマネジメントに詳しい専門家の協力を得ながら、出張規定や手配ルールなどの整備を進めることが考えられます。