岸田首相の骨太方針2023では、雇用の流動化を見据え、公平かつ多様な働き方に中立的な税制を目指すとして、退職所得課税の是正を提言しています。
退職所得課税の優遇措置
退職金を一時金で受け取り、そのまま給与所得として課税所得に合算すると大きな税負担が生じます。
退職金は老後の生活保障としての役割をもち、担税力は低いため、退職所得として、退職所得控除、1/2課税、分離課税など、税負担を軽減する優遇措置がとられています。
なお、平成24年度税制改正で、勤続年数5年以下の役員等に支給される退職金には1/2課税を適用せず、さらに令和3年度税制改正では、令和4年1月から役員等以外で勤続年数5年以下の者に支給される退職金で退職所得控除額を控除した残額が300万円を超える部分についても、1/2課税を適用しないなど、優遇措置の一部が制限されています。
退職所得の要件
退職所得となる要件は、勤務関係が終了していること、労務対価の後払いとしての性格をもつこと、一時金で支給されることの3つを満たすか、これらの要件を満たさない場合でも、退職金制度の制定や改正、定年再雇用、役員、執行役員就任などに伴い支給されるものも退職所得となります。
退職年金は雑所得で毎年課税
一方、退職金を年金で受け取るときは雑所得として課税され、退職所得のような手厚い優遇措置はありません。
同じ退職金を一時金で受け取るか年金で受け取るかで課税が異なり、税負担に違いが出ることは問題ともいえます。
骨太方針が示す退職所得課税の姿は?
骨太方針2023は、これまでの終身雇用を前提とした制度からリスキリングで人材育成し、成長産業への移動を促す制度への転換を目指しています。
そのため、長く勤務する人ほど優遇される退職所得課税の見直しが検討されています。
優遇措置はさらに制限されることが予想され、終身雇用を前提とした退職所得課税は、その使命を終えるのかもしれません。
そこでは老後の生活保障の備えとして、自身で株式や個人年金で資産形成をはかることが求められますが、経済格差を拡大させるリスクも持ちます。
税制には、本来、人生設計に干渉しない中立性が求められます。
退職所得を含む税制のあり方は、さらに検討が必要です。